妊娠5か月に入った頃から、明日香さん(仮名・32歳)は3〜4日に1度しかお通じがない日々が続いていた。もともと快腸だったのに、お腹が張って重だるく、気持ち悪さが続く。「つわりが落ち着いたのに、今度は便秘で体がつらい……」と悩み始めた。
妊婦健診で助産師に相談すると、「妊娠中はホルモンの変化で便秘になりやすいんです。食物繊維と水分、それと乳酸菌も意識してみてください」とアドバイスをもらった。でも、何をどのくらい摂ればいいのか、どんな食品を選べばいいのか、具体的にはよくわからない。
マタニティ期の便秘は、妊婦の30〜40%が経験するとされています。食物繊維と乳酸菌を組み合わせた「ダブルアプローチ」は、腸内環境を内側から整えるための有効な方法として注目されています。この記事では、妊娠中に便秘が起きやすい仕組みから、食事での対策、注意点まで分かりやすく解説します。
- 妊娠中に便秘が起きやすい4つの理由
- 食物繊維(水溶性・不溶性)と乳酸菌それぞれの役割
- 食物繊維と乳酸菌を組み合わせる「ダブルアプローチ」の考え方
- 妊娠中に食物繊維・乳酸菌を摂るときの実践的なコツと注意点
なぜマタニティ期は便秘になりやすいのか
妊娠中は体のさまざまな変化により、通常よりも便秘になりやすい状態が続きます。主な原因を整理してみましょう。
原因1:プロゲステロン(黄体ホルモン)の増加
妊娠を維持するために分泌が増えるプロゲステロンは、子宮の筋肉を緩める作用があります。この作用が腸の筋肉にも及び、蠕動運動(ぜん動運動)が抑制されることで便が腸内に長く留まりやすくなります。妊娠初期から中期にかけて特に影響が出やすいとされています。
原因2:大きくなる子宮による腸の圧迫
妊娠が進むにつれて子宮が大きくなり、大腸や直腸が圧迫されるようになります。特に妊娠後期には、骨盤周辺の圧力が高まることで排便がしにくくなり、便秘が悪化しやすくなります。
原因3:運動不足・活動量の低下
お腹が大きくなるにつれて体を動かすことが難しくなり、運動量が低下します。身体活動と腸の蠕動運動には密接な関係があり、動かない時間が増えることで腸の動きが鈍くなりやすいとされています。
原因4:食物繊維・水分の摂取不足
つわりによる食欲低下や、お腹が大きくなることによる食事量の減少などにより、食物繊維や水分の摂取量が不足しがちになります。これらは便の形成と排出に欠かせない要素であり、不足すると便が硬くなりやすくなります。
食物繊維の2種類と腸内での役割
食物繊維には水溶性と不溶性の2種類があり、それぞれ腸への働き方が異なります。どちらか一方だけでなく、バランスよく摂ることが便秘対策の基本です。
水溶性食物繊維:善玉菌を育てる
水溶性食物繊維は水に溶けてゲル状になり、腸内で善玉菌のエサ(プレバイオティクス)として機能するとされています。善玉菌がこの食物繊維を分解すると短鎖脂肪酸が生成され、腸内環境を弱酸性に保つことで悪玉菌の増殖を抑えることが期待されています。
代表的な食品には、大麦・オートミール・わかめ・昆布・りんご・バナナ・オクラなどがあります。
不溶性食物繊維:腸の動きを促す
不溶性食物繊維は水に溶けにくく、腸内で水分を吸収して膨らむことで便のかさを増やし、腸壁を刺激して蠕動運動を促す働きがあるとされています。
代表的な食品には、ごぼう・れんこんなどの根菜類、ほうれん草・ブロッコリーなどの葉物野菜、大豆・いんげん豆、きのこ類があります。
バランスの目安と現状
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、食物繊維の目標量として成人女性で1日18g以上が推奨されています。しかし令和元年の国民健康・栄養調査によると、実際の平均摂取量は約14gにとどまっており、目標に届いていない方が多い状況です。
妊娠中は特に食事内容が偏りやすいため、意識的に食物繊維を摂ることが大切とされています。
| 食品 | 食物繊維量(100gあたり) | 主な種類 |
|---|---|---|
| 大麦(押麦) | 約9.6g | 水溶性が豊富 |
| ごぼう | 約5.7g | 不溶性が多い |
| わかめ(乾燥) | 約32.7g | 水溶性が多い |
| ブロッコリー | 約4.4g | 不溶性が多い |
| 納豆 | 約6.7g | 両方含む |
※ 数値は「日本食品標準成分表2020年版」を参考にした目安です。
乳酸菌の役割:善玉菌を直接補充する
食物繊維が善玉菌を「育てる」役割を持つのに対し、乳酸菌は善玉菌そのもの(プロバイオティクス)を外から補充する役割を担います。
腸内に存在する善玉菌の代表である乳酸菌やビフィズス菌は、乳酸を生成して腸内を弱酸性に保ち、悪玉菌が増殖しにくい環境をつくることに貢献するとされています。
妊娠中も食べやすい乳酸菌を含む食品には以下のようなものがあります。
- ヨーグルト:最も手軽な乳酸菌源。無糖タイプがおすすめ
- 味噌・醤油:和食の調味料として日常的に摂りやすい
- 乳酸菌配合の栄養補助食品:食欲がないときでも取り入れやすい
乳酸菌は腸内に永久定着するわけではなく、毎日コツコツ摂り続けることが腸内環境の維持に有効とされています。
ダブルアプローチとは:食物繊維と乳酸菌を同時に摂る
食物繊維(プレバイオティクス)と乳酸菌(プロバイオティクス)を同時に摂取することを「シンバイオティクス」と呼びます。善玉菌のエサとなる食物繊維と、善玉菌そのものを一緒に摂ることで、腸内環境を効率よく整えることが期待されています。
食事で実践するダブルアプローチの組み合わせ例
| 食物繊維源 | 乳酸菌源 | 実践メニュー例 |
|---|---|---|
| 大麦・わかめ | 味噌 | わかめと大麦入りの味噌汁 |
| バナナ・りんご | ヨーグルト | フルーツヨーグルト |
| 根菜類 | 味噌 | 根菜たっぷり豚汁 |
| 大麦若葉 | 乳酸菌配合タブレット | 青汁タブレットでまとめて摂取 |
妊娠中に実践したい食物繊維・乳酸菌の摂り方
ポイント1:少量ずつ、多品目から摂る
食物繊維はさまざまな食品に含まれており、一度に大量に摂るよりも多品目から少しずつ摂ることが体への負担を減らすコツです。いきなり量を増やすと、お腹が張ったりガスが溜まったりすることがあるため、徐々に増やすことを意識しましょう。
ポイント2:水分をこまめに摂る
食物繊維の効果を引き出すには、十分な水分摂取が欠かせません。特に不溶性食物繊維は水分を吸収して膨らむ性質があるため、水分不足の状態では逆に便が硬くなる可能性があります。1日1.5〜2リットル程度の水分摂取を意識しましょう。
ポイント3:主食を変えるだけで食物繊維をプラス
白米の一部を大麦や雑穀に置き換えるだけで、手軽に食物繊維の摂取量を増やせます。大麦は水溶性食物繊維(β-グルカン)が豊富で、食後の血糖値の急上昇を抑える働きも期待されています。
ポイント4:無理をせず続けられる方法を選ぶ
つわりや体調の波がある妊娠中は、毎食バランスよく食べることが難しい時期もあります。体調が悪い日には無理をせず、調子のよい日に食物繊維・乳酸菌を意識した食事を心がけるくらいの気持ちで臨みましょう。
食事以外で食物繊維・乳酸菌を補う選択肢
食欲がない日や調理が難しいときは、栄養補助食品を活用するのもひとつの方法です。

- 主原料:国産大麦若葉・ケール(食物繊維を含む緑黄色野菜)
- 腸活サポート成分:乳酸菌・キシロオリゴ糖を配合
- 味:ヨーグルト味で食べやすく、食欲がないときでも口にしやすい
- 1日の目安:3〜10粒(水なしでおやつ感覚で食べられる粒タイプ)
妊娠中の便秘対策に関するよくある質問
Q1. 妊娠中に食物繊維を摂りすぎても大丈夫ですか?
通常の食事から摂りすぎることは稀ですが、急に大量に増やすとお腹が張ったりガスが増えたりすることがあります。特にサプリメントや栄養補助食品を利用する場合は量に注意し、様子を見ながら摂取量を調整してください。気になる症状があればかかりつけ医にご相談ください。
Q2. 乳酸菌を摂ると便秘は改善されますか?
乳酸菌の摂取が腸内環境のバランスの維持に役立つとされていますが、効果には個人差があり、便秘の改善を保証するものではありません。食物繊維や水分との組み合わせ、継続的な摂取が重要とされています。便秘が改善されない場合はかかりつけ医にご相談ください。
Q3. 市販の便秘薬は妊娠中でも使えますか?
市販の便秘薬の中には妊娠中の使用が推奨されないものがあります。自己判断で薬を使用せず、必ずかかりつけの産婦人科医または薬剤師にご相談ください。食事や生活習慣での対策を優先し、必要に応じて医師の指示に従った薬を選びましょう。
Q4. 妊娠初期と後期では便秘対策は変わりますか?
妊娠初期はホルモンの変化による腸の動きの鈍化が主な原因で、妊娠後期は子宮の圧迫が加わります。どの時期も基本は食物繊維・水分・乳酸菌の摂取と適度な運動ですが、後期は子宮の圧迫が加わるため、より丁寧なケアが必要になることがあります。体調の変化があれば健診時に相談しましょう。
Q5. 青汁タブレットは妊娠中でも摂れますか?
青汁タブレットは食品ですが、妊娠中は必ずかかりつけの産婦人科医にご相談のうえご利用ください。特にビタミンKを含む緑葉野菜由来の製品は、血液をサラサラにする薬(ワーファリンなど)を服用中の方との相性に注意が必要です。アスパルテームを含む製品はPKUの方には禁忌です。
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参考情報
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
- 厚生労働省「妊産婦のための食生活指針(2021年改定版)」
- 厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査結果」
- 文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」
- 厚生労働省「e-ヘルスネット:食物繊維の必要性と健康」
まとめ
マタニティ期の便秘は、ホルモンの変化・子宮の圧迫・運動不足・食事の変化などさまざまな要因が重なって起きやすい状態です。食物繊維と乳酸菌のダブルアプローチは、腸内環境を整えるための基本的な食事戦略として期待されています。
- 水溶性食物繊維:善玉菌のエサとなり腸内フローラをサポート
- 不溶性食物繊維:便のかさを増やし蠕動運動を促す
- 乳酸菌:善玉菌を直接補充して腸内を弱酸性に保つ
急に食事を変えようとせず、少量ずつ・多品目から・水分と一緒に摂ることを意識するところから始めてみてください。体調に波のある妊娠中だからこそ、無理なく続けられる方法を大切にしましょう。
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